大判例

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東京高等裁判所 昭和35年(ネ)2171号 判決

次に被控訴人らの要素の錯誤の抗弁につき判断する。なるほど一般的には、主債務者が誰であるかは保証契約の要素であり、したがつて、この点につき保証人に錯誤があれば、右保証契約は要素の錯誤に基き無効たるを免れないのが本則である。(大審院昭和九年五月四日言渡判決、民集一三巻六三三頁参照)。しかしながら前段認定の事実および右認定の資料に供した証拠を総合して考察すれば、本件においては、次の事実が認められる。すなわち、(イ)石川は当時三越タクシーの株式の過半数を所有し、同会社を経営していたが、当時同会社には七、八百万円の負債があつたこと、石川は四、五百万円の資産のほか、不動産(但し抵当の目的になつている)を所有し、その支払能力の点においては三越タクシーに劣る状態ではなかつたこと、(ロ)石川は、当初前記の如く三越タクシーの代表者たる資格に基きその経営資金を控訴人から借用する意思であり、かつその趣旨で被控訴人両名から連帯保証の承諾を受けた関係であつたばかりでなく、現にこれを借り受けたのちも、右借用金全部を三越タクシーの営業資金に供し、三越タクシーの経理上も右借用金は直接同会社自身の債務として処理されて来たものであり、結局、債権者との関係では石川個人が主債務者であるけれども、三越タクシー、石川並びに連帯保証人たる被控訴人らの内部関係においては、主債務者は三越タクシーに外ならないものであること、以上の事実が認められ、右事実によれば、債権者に対する関係で石川個人を主債務者としたことは、三越タクシーを主債務者とした場合に比し、保証人たる被控訴人らに対し特に不利益であると認めることはできない。(被控訴人らが右保証債務の責任を問われたときは、右借用金については前記のとおり内部関係においては三越タクシーが主債務者であるから、被控訴人らは右会社に対し求償し得るのみならず、他面被控訴人らが右債務を弁済したときは民法第五〇〇条により当然債権者に代位し、石川個人に対しても求償し得る筋合であり、この点において、本件の如き保証契約は、三越タクシーだけを主債務者とした場合に比し、むしろ保証人たる被控訴人らに有利というべきである。)しかして以上の事実を勘案すれば、本件貸借に当り、債権者たる控訴人との関係で、主債務者を石川個人としたことは、少くとも客観的に見て、本件保証契約につき、要素の錯誤があつたものとは到底認められない。

(牛山 田中 土井)

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